【ネタバレなし感想】映画「万引き家族」を見て傍観者の私が思うこと

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した、是枝裕和監督の「万引き家族」。

好きな映画監督が世界で評価されるのは嬉しいし、誇らしい。

話題になっただけに、公開前からさまざまな情報が入ってくる。

 

いてもたってもいられず、6月8日の公開日を前に、先行上映を見に行った。

映画館で映画を見ること自体、ひどく久しぶりだ。

結果、「万引き家族」は映画館で見て良かった映画だった。

 

そして、いろんな前情報があるけれど、できるだけまっしろな頭と心で見たほうが良い映画だとも思った。

なので、ほとんどネタバレはせず、映画を見て私の中にわきあがったものを書こうと思う。

 

光が当たらない人にスポットを当てる

 

是枝監督が受賞後、テレビでインタビューを受けたとき、

 

「ふだん見えないことにされている人々に光を当てたい」

 

と言っていた。

 

14年前、映画館で見て衝撃を受けた、是枝監督の「誰も知らない」。

柳楽優弥が14歳でカンヌの最優秀主演男優賞を受賞し、注目されたこの映画も、まさに世間から居ないことにされている子どもたちが主役だった。

 

そのときの私は、この映画に出演する子どもたちが、演技をしていないことにただただ驚いた。

子どもは素直だからこそ、大人が気に入るようなわざとらしい「子役」を演じてしまう。

カメラの前で、これだけ自然な子どもたちの表情を引き出す監督の力と、演者に対する信頼感の厚さに圧倒された。

 

実際の事件を元にした映画のテーマは重く、まだ若く子どもだった私には、内容を「自分ごと」ととらえるのが難しかった。

しかしそれから14年、劇場で見た「万引き家族」は、私の中にぐいぐいと入って来て、いろいろな思いを引っ張り出してきたのである。

 

見えない人々

 

「万引き家族」とはタイトルの通り、万引きと、祖母の年金で生計を立てている「家族」の物語だ。

全員、血のつながりはなく、先の是枝監督インタビューの言葉を借りると「血ではなく、お金でつながっている家族」。

 

映画の概要を知ったとき、教師である父が言っていたことを思い出した。

 

ときどき、貧しい地域の父兄を学校に呼んで話をすることがある。

書類に記入してもらおうとすると「ボールペンを貸してください」と言う。

ボールペンを渡すと、書いたあと、ごく自然にそれをポケットに入れる。

まるで自分のものだったかのように。

 

父はこれを、子どもの行動がおかしいと感じるとき、それは親の世界も自分の常識とは違う場合がある、という意味合いで言っていた。

善悪の問題以前に、自分の見ている場所以外の、違う世界で生活している家族があるのだと。

でも私は、父の話を聞いて「そんな家族とは友達になりたくないなあ」と思った。

 

だから、「万引き家族」を見たら、なんだか拒否感が出るかもしれない。

 

しかし予想とは裏腹に、私は自分とは別の「家族」の世界に、どんどんと潜っていった。

 

映画の中にずぶずぶと沈む

 

先行上映1日目、朝一番の映画館のど真ん中の席で、「万引き家族」が始まるのを見た。

最初のシーンの日常の物音、それを聞いただけで、私は映画の中に沈みだす。

「家族」の日常が、淡々と描かれる。

この家族にとっては、万引きも日常だ。

 

リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡 茉優、樹木希林。

知っている顔ばかりが出てくるのに、もう家族にしか見えない。

そうだ、この映画はもともと、他人が家族になる話だ。

 

さまざまな事情を抱える「家族」の中に沈みながら、私は昔出会った「光の当たらない子ども」のことを思い出す。

 

私には正論を言わないことしかできなかった

 

「これ、すごいっしょ」

 

中学で同じクラスだった彼女は、薄くリストカットの傷が並ぶ腕を、いたずらっぽい顔で見せた。

中流家庭が暮らす、マンションに囲まれた緑豊かな通学路。

紺の制服を着て、校則を破ることもなく、いい子でおとなしくしている。

そんな彼女の腕に並ぶ細い傷跡。

 

「お父さんと結婚した人がね。大嫌いなんだ。

連れ子がいるんだけど、その子に向かって”このお姉ちゃん、早く出て行ってくれないかなあ”って言うの。

それで私、何度も腕を切って倒れてるんだけど、そんな私をチラって見るだけで無視するの。

だからさ、最後は自分で血とか掃除するんだ。

何やってんだろ、て思う」

 

私は何も言えなかった。

家庭に問題なく育ってきた私には、彼女の気持ちを想像することができない。

ただ、「自分を大事にしなよ」なんて言う、正論やきれいごとだけは言わないでおこうと思った。

 

別の友達は、お父さんが大好きだった。

親が離婚して、近所の高層マンションに引っ越してきた。

家はお金持ちのようだった。

 

「親が離婚したあと、お父さんが玄関の外まで会いに来たの。でもお母さんが絶対中に入れなかった。

会わせてくれ、ていうお父さんの声が聞こえた」

 

大学生になって再会した彼女は、キャバクラで働いていた。

夜の世界で出会った彼氏の写真を嬉しそうに見せてくれたが、数日後、メールが届く。

「彼氏と連絡が取れない」

 

私にはなんの手助けもできない。

ただ「大丈夫?」とメールを返すことしか。

そのあと、彼女から連絡が来た。

「彼氏、逮捕されて拘留されてたの。心配させると思って連絡しなかったて。見つかってよかった」

 

それから、彼女とはなんとなく連絡を取らなくなった。

 

見えないのではなく、見なかった

 

「万引き家族」を見ながら、今まで「見ないふり」をしていた人々のことを急に思い出した。

見なかったのは私。

正論を言うつもりはないけど、助けもしない、そうして存在を消していったのは私。

 

ボロボロの服を来たあの子どもの前を素通りする大人は、今や私になった。

映画を見る前は、「日本の貧困問題にスポットを当てる映画」だと思っていた。

しかし、そんな単純なものではなかったし、そんな上から目線の映画でもなかった。

 

「万引き家族」を取りまく、世間の目、正論、社会の常識。

そういったものに違和感を感じれば感じるほど、自分自身に返ってくる「私は正論側の人間ではないのか」という問い。

 

正論側の人間は、そうじゃない側から見ると、あんなにも権力の皮を被って見えるのか。

後半の、安藤サクラの言葉がざくざくと刺さる。

 

家族の物語に沈んだはずなのに、いつの間にか私は家族をジャッジする「あちら側」に立っていた。

 

「血ではない」家族のつながり

 

同じ是枝監督作品の「そして父になる」でも、「家族は血なのか、時間なのか」というテーマを扱っている。

「そして父になる」は、法律にのっとった形で、あの結末を迎えた。

 

それが、そうではなかったら。

是枝監督の「家族は血なのか」というテーマに触れるとき、私は幼い女の子のことを思い出す。

 

7年同棲した、元彼の娘だ。

彼は出会ったときからシングルファザーだった。

子どもの母親は、産後1か月で失踪。

私と付き合いだしたとき、彼には出産費用のために借りた、消費者金融への借金があった。

 

けっして楽ではない生活の中で、子どもだけが彼の希望だった。

私と幼い娘とは、7年後、小学校の運動会で私のことをお友達に紹介してくれるまでに親しくなった。

 

結局、その彼とは結婚に至らず、別れることになる。

別れて数か月後、メールが届いた。

「新しい彼女ができた。娘のためにも、今後は連絡を取らないでほしい」

それで終わりだった。

 

ああ、私は母親ではないし、金銭的に援助できるわけでもない。

子どもの人生に責任が取れない大人は、そばにいるべきではないんだなあ。

 

そんな個人的経験も相まって、「そして父になる」をメキシコの映画館で見たときは、最初から最後まで泣きっぱなし。

今回の「万引き家族」にも、小さな女の子が出てきて、その子が微笑むたびに胸が締め付けられた。

 

「万引き家族」に出てくる、過去に生きるおばあちゃんと、人生の先行きもプラスマイナスも計算できる大人と、今と未来しかない子ども。

 

見るものにざわざわとした胸騒ぎを残しながら、彼らの生活は続いていく。

私たちは、傍観者だ。

今の日本では、この社会では、手を差し伸べようとしても限界がある。

 

ではどうすればいいのか

 

私は今、自分がはっきり傍観者だと自覚している。

「正論は言わない方が良い」ということをわきまえているだけの、正論側の人間だ。

 

映画に出てくる、マスコミや正論側の人間のリアルさ。

ニュースやワイドショーの、おもて面だけを受け取ってはいけない。

与えられた善悪の基準だけでものごとを見ようとすると、かえって何も見えなくなる。

 

「見た人の正義感が試されるような、そんな映画」と是枝監督は言った。

 

正義感って、いいことか。

 

メキシコに住んでいたとき、出会った大学生の友人の言葉を思い出す。

 

「子どものころ、家族で国境を不正に越えてアメリカに行った。

小さい妹も連れて、隠れながら国境を越えたときは、怖かった。

 

不法移民は悪いことだって、みんな知ってる。

でも、それをやらなきゃ家族は生きられない。

 

じゃあ、誰が悪い?」

 

誰が悪い?

 

ぜひ劇場で見て欲しい

 

「万引き家族」は、それぞれの本音と建前と、言えなかった言葉たちが役者の表情からあふれ出す映画だ。

だからこそ、大きなスクリーンで、静かな空間で集中して見ることをおすすめする。

 

リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡 茉優、樹木希林らが、家族になる瞬間を、ぜひ見て欲しい。

全国の上映館はこちらから。

 

長らく映画館に行ってない、という人も、ぜひ「家族」に沈む体験をしに行ってください。

 

「万引き家族」予告

公式サイト http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

Twitter 映画『万引き家族』公式(@manbikikazoku

是枝裕和監督(@hkoreeda

 

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