殺伐としたものだらけの時代に~劇団MONO「その鉄塔に男たちはいるという+」感想

 

2月の風が強い日に、伊丹アイホールで劇団MONO「その鉄塔に男たち入るという+」を見てきました。

様々な劇団に上演されてきた作品ですが、今回は22年前の初演時と同じメンバーでの再演です。

個人的に思い入れが強い作品であると同時に、「今の時代にこそ見たい芝居だ」とずっと思っていました。

念願かなって見ることができ、とても良かったので感想を書きます。

伊丹アイホール(兵庫県伊丹市)

 

外国の戦地に来ていたグループが突然消えた。
噂によればその鉄塔に男たちはいるという。 (パンフレットより引用)

 

※以下、前半のあらすじを含みますので、ネタバレを一切入れたくない方は観劇後にお読みください。

 

幕が上がると、そこにいるのは男性4人のコメディグループ。

彼らは、外国の戦地で駐屯している「日本の」軍隊のため、慰問に訪れています。

しかし駐屯地に流れる異様な雰囲気に怯えた4人は、近くの鉄塔に逃げ込みました。

「戦闘が集結するまでの短期間、ここに隠れていれば何とかなるさ」と、彼らはコメディの練習をしたり、くだらないことで小さなケンカをしたり、日常を継続することでやり過ごそうとします。

しかし、嫌でも遠くから響く銃声が現実を伝えてきて……。

 

何やらシリアスな話に聞こえますが、芝居はテンポ良い会話でどんどん進むコメディ劇です。

MONOの土田英生さんの脚本は、さっきまで仲間だった人が、その時々の立場や状況によって敵になったり、グループになったと思ったらまた一人ぼっちになったり、関係性が瞬間ごとに動くのが面白い。

戦場に隠れているというのに、彼らのいざこざはあまりに日常的でくだらなく、小さな集団の中で人間関係があっちに行ったりこっちに行ったりする様子に何度も笑いが起きます。

けれど、ささいな問題が実は大きな世界とつながっていることに、観客だけが気づいていきます。

 

初めてこの作品を見たときから、ずっと心に残っているセリフ。

「殺伐としたところから遠い存在でいたいよ」

今回の公演チラシにも書かれている、とあるメンバーの言葉です。

 

 

私がこの芝居と出会ったのは、大学1年生のとき。

近畿大学で演劇を学んでいて、初めての授業公演でやったのがこの脚本でした。

登場人物に対して学生の数が多いので、2グループに分けて、さらにシーンごとにキャストを変えての上演。

私は4人の中で一番年下の「小暮」という役に配役されました。

演出の先生曰く、「あんたは本質的に生意気だから」と言われてのキャスティング(笑)。

私はMONOの役者さんは全員好きですが、特に小暮役の尾方宣久さんの顔ファンでもあったので密かに嬉しかったのを覚えています。

私たちのチームが演じたのはラストシーンで、今思えばとても重要な役どころ。でも、当時は夢中で気づきませんでした。

 

2001年、9.11同時多発テロが起こった年です。

世界で戦争が始まる瞬間を目の当たりにしながらも、まだ「その鉄塔~」に描かれているような、日本人が戦地に行くなんて状況は18歳の私には想像できませんでした。

毎日、組み上げた鉄塔のセットの上で稽古をしながら、「外国の戦地にいる自分」を一生懸命イメージして演じながら、現実の私はニュースの中の「殺伐とした世界」を眺めるだけの「遠い存在」だったのです。

 

その時の演出は、近畿大学教授(当時)で演出家の大橋也寸さん。

今もお世話になっている恩師ですが、稽古では最初からビシビシ鍛えられました。

特に、芝居を始めるのに重要な一番最初のセリフ「もう、みんな寝た?」には何度もダメ出しが入り、一時間以上そのセリフだけを練習するなど、ひと言ひと言を徹底的に稽古し……。

ラストシーン組の私は、自分の稽古がないままその日が終わるなんてこともしょっちゅうで、ずーっと見ているうちに他のセリフもすっかり覚えていたようです。

今回、19年ぶりに見てもセリフがするする頭に浮かんできたので(笑)。

実は当時、まだMONOの舞台を生で見たことがなく、何度も「その鉄塔~」のビデオを見て研究しました。

MONOのお芝居の面白さは、何気ないセリフも、声の出し方ひとつで言葉通りの意味にはならないところ。

しかし私を含めた学生たちはそんな器用な芝居ができなくて、「どこかで見てきたセリフの言い方」を真似してしまう。

そこで、先生は全員に「自分の育った土地の方言で演じなさい。そうすれば作り声じゃない本物の声が出るから」と言いました。

私はもちろん、大阪弁で小暮を演じます。

ビデオの中の小暮役、かっこいい尾方さんは標準語で演じていますから、「私の小暮をどう演じよう」とずっと考えていました。

結果、私たちの「その鉄塔~」は関西弁はもちろん、広島弁、茨城弁、名古屋弁などが飛び交う芝居となりました。

 

それから数年後。

色々あって役者の道を断念した私は、演劇留学するつもりで貯めていたお金で、海外へひとり旅するようになりました。

外から日本を見たり、日本から世界を見たり。

そして徐々に、徐々に「その鉄塔~」の世界が近づいてくるのを感じるようになりました。

あの時は、「私が生きている間に日本人が戦争に行くことなどないだろう」と思っていたのに。

でも、世界の様々な場所で戦争や内紛が起こっても、「殺伐としたところから遠い存在でいたい」人はたくさんいて。

遠い存在でいた結果、彼らはどうなったのか。

私たちはどうなるのか。

 

そんなことを考えるたびに、あの4人組のことを思い出し、自分が演じた最後の小暮が見た景色を思い出しました。

だから、劇団MONOが30 周年記念で「その鉄塔に男たちはいるという+」を上演すると聞き(しかもオリジナルメンバーで!)、「絶対に見たい」と劇場に駆け付けたのでした。

 

今回はタイトルに「+(プラス)」とついている通り、最初に新キャストによる新作を上演してから、オリジナルキャストでの本編が始まります。

この新作も、初めましての役者さんたちもとても良かった。

世界線は「その鉄塔~」とつながっているけれど、時代が重ならない4人の物語。

ここに出てきた、土地に関するセリフにもハッとさせられました。

大学生の時に見てもピンと来なかっただろうけど、海外に住む経験をし、外国人の夫がいる今の私には感じることが多々あり、見ながら思考が止まりませんでした。

 

その後の本編では、さっきまでの世界から未来に移ったような、でも逆に過去に移ったような気もする、不思議な感覚を味わいました。

19年経ってもしっかりセリフを覚えていたので、今回新しく増えた部分を楽しみつつ見ていたら、あっという間に終わってしまいました。

吉村役・奥村奏彦さんの衣装が以前と比べてだいぶ変わっていたことがツボで…なんであんなことに…(笑)。

奥村さんは舞台美術もやられているので、あのかっこいい舞台セットと演じられる役とのギャップがいつも面白いです。

また、他の人がセリフを話してる時の城之内役・金替康博さんのリアクションは、一度気になりだすとずーっと見てしまうぐらい面白くて危険でした。

 

そしてラストシーン、初めて生で見た尾方さんの「小暮」には胸が熱くなりました。

18歳の私は、映像でこの人の演技を何回も見て、「いつか私もMONOの役者さんと同じ舞台に立ちたい」と憧れていたのでした。

 

色んな思い出が次々と溢れてきて、頭の中が大忙し。

この芝居を初見で見られる人がうらやましいです。

今の時代にまっさらな状態で見たら、私は何を感じただろう。

 

今回は私の感想を書きましたが、見る人によってひっかかるセリフも印象も違うだろうし、とにかく色々と思わずにはいられない作品です。

劇団MONO「その鉄塔に男たちはいるという+」、伊丹での公演は終わりましたが、2月22・23日に長野県上田市、3月1日は四日市市、3月7・8日が北九州、3月13~22日が東京と続きます。

チケット情報など詳細は劇団MONOの公式サイトで確認できます。

公演とかぶる日程で東京で仕事入らないかな…また見たいな…。

 

劇場には行けなさそうだけど劇団MONOに興味を持ったという方は、土田英生さん監督でMONOメンバー総出演の映画「それぞれ、たまゆら」が春に公開されるそうなので、チェックしてみてください。

「その鉄塔に男たちはいるという」は、2007年上演バージョンのDVDがネット販売されています(持ってる)。

今回の2020年バージョンもDVD化されるようですので、そちらも今後劇団MONOのサイトに情報が出ると思います(欲しい)。

脚本もパンフレットも買ったのでDVDも買うと思います。

以下、余談

 

近大入試の際、実技試験があったんですが、そこで出されたのも土田さんの脚本のワンシーンでした。

小・中・高と演劇部だった私はもちろん土田さんを知っていましたが、他の受験生は誰も知らないようで。(声優志望の子が多かったような)

その後の面接で実技試験の感想を聞かれ、「土田さんの脚本だと思いました…」と馬鹿みたいな答えをしたんですが、後で恩師に聞いたところ「ほかの誰も知らなかったから、土田英生を知ってるだけで合格よ」と。

土田さんのおかげで私、大学に受かりました。ありがとうございました。

 

卒業後も関西で芝居をしていた私は、実はMONOに入りたかったんです。

が、当時のMONOは女性メンバーも若いメンバーもおらず、劇団員募集もしておらず、扉をたたく勇気がありませんでした。

なので、私が卒業して何年も経ってから、MONOの結成メンバーである水沼健さんが近畿大学教授になって演劇を教えていると知った時は「いい時代だなあ…」と思いました。

私には叶わなかったけれど、後輩がMONOの役者さんと一緒にお芝居を作れてるなんていいやん、素敵やん、と思います。

一度、大きな同窓会があった時に水沼さんがいらして、話しかけたんですが積年の思いが強すぎてかなりぎこちなくなりました。そんなもんです。

 

今はただ、できる限り長く、このメンバーでMONOを続けて頂けたら幸せです。

(贅沢を言えば「-初恋」のオリジナルメンバーでの再演も見られたら…。無理でしたらせめてDVDを…むかーしBSかどこかで放映されたやつ、VHSに録画していて…もう…再生機器がないのです…)※劇団MONOの中の人の脳内に直接語りかけています。

 

以上で感想を終わります。

 

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